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日本温泉総合研究所

 
 

 
  長野県パブリックコメント「公衆浴場の設置場所の配置及び衛生等の措置の基準に関する条例」及び「旅館業法施行条例」の改正に対する意見書
長野県は、公衆浴場法、旅館業法、レジオネラ対策についての条例・規則の改正にあたり、意見の募集(パブリックコメント)を2009年12月11日より2010年1月12日にかけて 募集しました。 同様のパブリックコメントでは2004年の群馬県における際、当時の群馬県温泉協会会長からの要請で提出したことがあります。今回は当研究所の業務において野沢温泉や上林温泉ほか、長野県の温泉地とはかかわりが深いことから、独自で意見を提出しました 。なお、内容はレジオネラ対策に絞ってあります。以下、送付原文のままで公開いたします。

パブリックコメントの詳細はこちら( 長野県HP)をご覧ください。

 

「公衆浴場の設置場所の配置及び衛生等の措置の基準に関する条例」及び
「旅館業法施行条例」の改正に対する意見

 
長野県衛生部 食品・生活衛生課 生活衛生係 御中

氏名:株式会社日本温泉総合研究所 統括 森本卓也
〒・住所:〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2-19-15 宮益坂ビル5階
電話番号:03-3499-3026
FAX番号:03-3499-3007


レジオネラ属菌の問題が風呂の現場で取沙汰されるようになって久しい。この間、レジオネラ属菌に対する研究と知見の蓄積が進んだ。その対策のための条例化の動きも全国に広がった。しかし、レジオネラの問題が解決されたわけではない。陰に、日向に、レジオネラ属菌は日々検出され続けている。「なぜ」か。その背景をよく考えなくてはならない。

レジオネラ症発症防止対策は、浴槽水をろ過・消毒することで再利用する「循環式浴槽」をおもな対象としている。浴槽から連なる複雑な配管やろ過機の内部は、諸菌の棲息には好適な環境が整っていて、「増殖装置」としての役割も果たしている。よって浴槽水の消毒は必須となるが、設備が複雑化するほどリスクは高まるので、衛生管理には多大な手間とコストも必要となる。一方、機械的・人工的設備があまりともなわない「かけ流し式」では、構造がシンプルであればあるほど管理の要点を絞ることができ、リスクも低くなる。

しかし、「かけ流し式」であってもレジオネラ属菌の検出が報告されている。循環式浴槽と同程度の頻度で検出されたとの報告もある。このことから、時に「かけ流し式」偏重への反発の意味もあって、「かけ流し式が安全とは限らない」という恣意的な論調も出回っている。だが、データを読むときはその数字の背景もきちんと把握する必要がある。単にレジオネラ属菌の検出率だけをクローズアップして危険か否かを論じても、この問題の本質は見えてこないし、解決にはならない。

現実には、循環ろ過を行っていながら適切な塩素消毒を行っていない施設は多い。まったく塩素消毒を行っていない驚愕の施設すらある。また、かけ流しであっても実際は溜め湯状態に近く、換水頻度の少ない施設もある。こうした施設では浴槽にぬめりが見られることが多く、清掃も十分ではないようだ。つまり、「循環式」か「かけ流し式」であるかを問う以前の問題で、衛生管理に対する意識が追い付いていないのである。こうした施設を対象にすればレジオネラ属菌の検出率はおのずと高まる。

また、自らの施設や湯の特性とレジオネラの関係をよく理解できていない事業者も多いのではないか。レジオネラ属菌は65℃以上では生息できず、55℃以上での検出率はほとんど見られない。また、アメーバが定着しやすい檜の浴槽では検出率も高い。石や岩の浴槽も要注意である。高圧洗浄に頼りすぎて、ブラッシングを怠っていないか。かけ流し式の場合では、浴槽内外のタイルのヌメリなどが汚染の主因とみられている。こうしたことを正しく把握し、みずからの施設に照らし合わせれば「循環式」「かけ流し式」を問わずリスクは大幅に低減されるはずだ。レジオネラ属菌の検出が絶えないのは、そうした情報が行きわたっていない、そういうことを知らない、あるいは理解しようとせず管理を怠っている事業者がある割合でいるからではないのか。

よって、いま行政側に求められているのは、すでに厚労省や他県で議論が尽くされスタンダードになっている条例や規則の盛り込みについて問うのではなく、条例や規則に基づいてこの先、いかに事業者をフォローしながら、利用者の安全を担保しつつ、条例や規則を運用していくかという点にある。

以上のことから今回の条例・規則の改正とセットで以下の点に留意されるよう要望したい。

1. 衛生管理意識の普及・推進

県・保健所がレジオネラ属菌をはじめとした衛生管理対策の普及活動を反復的に実施する。その際、一般論ではなく対象となる温泉地や施設の泉質・温度・状況に応じた指導やアドバイスをできるよう準備して臨むことが望ましい。

2. 事業者の自主性を重視・尊重

事業者任せの性善説がレジオネラ問題を闇に葬るという指摘もあるが、行政による規制や管理を厳しくすることで事態がいっそう見えにくくなることは社会の通例である。自立した自主管理を原則として、県・保健所は正しい方向性を示し、適切な助言を行うことで事業者の自主性にもとづく適切な管理を支援すべき。

3.行政と事業者間の信頼関係を醸成

最悪の手段として営業停止処分も必要であるが、「取り締まり」は一過性に過ぎず、レジオネラをはじめとした衛生問題の解決にはならない。事業者サイドとともに問題解決に当たるという「共闘」というスタンスを示すことが重要。有事の際はいつでも事業者が報告・相談でき、行政側は迅速に助け船を出せる良好な環境づくりが急務。

今回の条例改正に加え、以上の取り組みも連動させることで、温泉県長野にふさわしい先進的な対応となり、良質で安心、安全な温泉の提供につながると考えられる。長野県が日本の温泉管理・温泉利用の範となることを期待 したい。

 

(上記意見書を2010年1月12日、長野県衛生部食品・生活衛生課生活衛生係宛てにFAXで送信)

日本温泉総合研究所